九官鳥
第1話
普通はこんな事言わないよね?
外で言うな!
私はひとめ見て何故かこのおじさんに
<生理的嫌悪感> を感じまくった。
(何でだろ?何かやな予感がする)
「いらっしゃいませ。何をお飲みになりますか?」
「おねーさん、きれいだねぇー」
「あ、あのー・・」
(何を飲むのかきいてんのよ!)
「あ、飲むものね。そうだなー、おねーさんのおつゆなんか
ぴちゃぴちゃと飲ませてもらおうかな。」
「やっだー!なにそれー!」
(げげっ!いきなり最低!わ、笑えない)
「冗談冗談。ビールでもちょうだい。」
(困ったなー、最初っからこれじゃ。この後なにを話せば良いの?)
意地悪そうな目で、話すときは三白眼になるこの人は
会話の中でやたらと四文字言葉を使いたがる。
(美人薄命とか自画自賛じゃないのよ)
あーやだやだ!仕事でもこんな人と飲みたくない。
2回目に来たときは、集金の帰りだと言っていた。
バイクで回っているのだろう、ヘルメットを被ったまま店に入ってきた。
黒い鞄を大事そうに肩からななめにさげている。
でも鞄の位置が・・・。上過ぎるのだ。
これでは胸の所で物を出し入れしなければならないだろう。
それより、鞄をおろすときは肩紐をいちいち伸ばさないといけないかもしれない。
そんなことを考えていると、私の目の前で
「あー、疲れた。やっと仕事が終わったんだ。」とカウンターに腰を下ろす。
飲むのに鞄が邪魔そうだったので、お預かりした方がいいかしらと思ったが、
なんせ脇の下で抱え込みはなさない。
(集金のお金が入ってると言ってたっけ。)
「ビールちょうだい。」
「はい。」
で、でもヘルメットは被ったままなのに、どうやってビールを飲むんだろう?
顎の下はベルトで止めるようになっているけど、シールドはおりたままだよー!
グラスを口元に持っていくと、飲めないことに気が付いた。
「これじゃ、飲めないな。」
次に彼がしたことは、シールドを上げることだった。
ヘルメットくらい取ればいいのにね、ドリフのコントじゃないんだから。(笑)
それから3時間後。
店に入ってきた時とおなじかっこうで彼は帰っていきました。
「どうしてそんな高い位置で鞄を下げるんですか?
どうしてヘルメットを被ったまま飲むんですか?」
・・・でもどうしても聞けなかった。こわくて。