熊五郎
第1話
おまえ!ホントはタケチャンマンだろ!
貴様こそ ブ、ブラックデビル!
よくわかったな。さすがタケチャンマン。
それは熊五郎じゃなくて鬼瓦権蔵でしょ!
じょーだんじゃないよ!くいっくい(首)
事業に失敗して多額の借金を抱えたまま、
妻子を残し田舎から出てきた(逃げてきた?)のが8年前。
事情が事情だけになかなか帰れないらしい。
40を一つ二つこしたくらいの年なんだけど、
よく飲み、馬を買い、パチンコも好き、
女も買うという様な、だらけた生活を続けている。
(そんなんじゃ立ち直れないよね)
いつも無精ひげをはやして、
見てくれはまさに「熊五郎」。
スナックに来ると、いつも自分に注目していてもらいたいタイプ。
少しほっとかれるとやきもちをやくんだな。
我慢の限界を超えるとものに当たる。
この間は、ママが大切にしている楊枝入れ(ガラス製、いただきもの)を、
いきなり壁に投げつけて割っちゃった。
そんな暴れた原因は、
私が、「他のお客さんとばかり話していたから」らしい。
そりゃ、私だって全員のお客さんとまんべんなく接しようと思ってるけど、
話を切り上げるタイミングってあるじゃないですか?
そんなことでいちいちやきもちやかれたんじゃねぇ。
とてもやりずらいのよね。
でも、熊五郎は酔っぱらってるからそんなことわかってくれない。
私は熊ちゃんのものじゃないんだけどなぁ。
もうひとつやきもちの話。
熊五郎が同僚を連れて二人で来た。
もう一人の人は無口でおとなしそうな人。
せっかく一緒に来てくれたのだから、
この無口な人にも楽しんでいってもらいたいと思った私は、
意識して彼の方にも話しかけるようにしたの。
だって、ずっと聞き役に徹するのってつまらないでしょう?
そうこうしているうちに1時間くらいたったかな。
突然熊五郎がグラスを持ったまま手をカウンターに叩きつけたの。
ものすごい音がしてね、グラスは割れるし、熊五郎の手は血だらけ。
「ちょっと、熊ちゃんどうしたの?」
とママが駆け寄り手を見てびっくり。
グラスの破片がたくさん手に刺さってる。
ママが熊五郎の手を洗面所で洗いながら
「どうしちゃったのよ、なにかあったの?熊ちゃんらしくない」
「ママ、ごめんな。グラス割れちゃった」
「グラスなんかどうでもいいけど、いったいどうしたのよ」
「あいつよー。(無口男のこと)むかつくんだよな・・・」
とぼそっと言ったらしい。
もしかして・・私のせい?
「熊ちゃんのやきもちには困っちゃうねー」
後で私の説明を聞いたママがこう言った。
本当だよ。
いちいちグラスや灰皿とか割られたんじゃたまらないよ。
でも、熊五郎がグラスを割ったとき、一番に逃げたのは私です。
(けんかになるかと思ったのよ。
そしたら私関係ないもーん)